ベトナムのビジネスに関わって10年が経ちます。私個人が実際に関わったビジネスは衣装制作とKTV、アパートメントですが、様々なビジネスパートナーとの関わりからベトナムの現実を見渡してきました。
そこで、今回は各種業界に絞ったテーマをまとめてみます。
飲食業の現状
ベトナムで飲食ビジネスを展開する際、日本から見える市場の状況と現地での実情には大きな違いがあります。まず、日本人向けの飲食店は飽和状態です。
ベトナム在住の日本人は約2万人と少なく、韓国人が約20万人であることと比較しても、その市場規模は限られています。
この10年間で日系飲食店は大幅に増加し、以前はベトナム人が提供する日本風の料理が主流でしたが、現在では焼肉やうどんなど、日本と同等の質の高い料理が提供されています。
また、価格競争も激化しており、利益を確保するには差別化が必要です。
日本人料理人の確保が難しい
料理人の方々は独自のコミュニティを持っています。その中で、残念ながらベトナムの評判はあまりよくありません。これには複数の理由がありますが、オーナーが複数いる状況や、技術だけ盗んで使い捨てられるという話が広まっているためです。
対策
ベトナム人オーナーによる無理解が原因で日本人料理人が困難を感じるケースが多いです。なるべく1オーナー体制にし、指揮系統が日本人体制であることが重要です。
ベトナム人料理人の限界
現場はベトナム人料理人に任せる流れになりますが、ベトナム人料理人は日本料理の全てを理解することができません。結果的に、日本料理のクオリティを保つのが難しくなります。
対策:
複雑なプロセスを簡素化することが鍵です。例えば、出汁のパックを使い、日本人料理長が監督することで味のクオリティを保つことが可能です。
厨房とホールの連携が悪くなりやすい
ホール担当のベトナム人スタッフの高い離職率が問題です。この連携が悪いと、繁忙時において回転率や利益率に影響が出ます。
対策:
料理長が全体を監視監督し、ベトナム人スタッフの管理を徹底しましょう。シフト管理の統計を利用して、欠勤のリスクを減らすことも有効です。
マネージャー職のベトナム人がすぐに辞める
ベトナムでは優秀な人ほど簡単に辞めてしまいます。マネージャー職への報酬が低いことが一因です。
対策:
マネージャー職の人件費を相場よりも高く設定し、料理長とマネージャーがしっかり連携できる体制を作ることが必要です。
バー業界の競争激化
私が経営するバー業界では、特に近年、日本スタイルのバー(コンセプトカフェ、ガールズバー、ラウンジなど)が増加していますが、競争は激化しています。
ベトナム系のKTV(カラオケテレビ)が飽和状態にある中で、新たなスタイルのバーが参入してきた結果、競争がますます厳しくなっています。
その意味で、今後を見据えた戦略としては以下の二つに分かれると思います。
- KTVのスタイルを維持したまま、海外のシェアを狙っていく
- 日系、日本人スタッフなどを前面に押し出し、日本独自の新しいスタイルを売りにしていく
- 大規模資本で場所、サービスなどでトップレベルを目指す
それぞれ考察したいと思います。
KTVのスタイルを維持したまま、海外のシェアを狙っていく
これは、基本的にベトナム人が主体となる店の話で、私の店がまさにここに位置します。実際的な話、旧来のKTVスタイルのお店は頭打ちです。
これは、日本企業がKTVなどの経費に関して厳しくなったことが最大の理由です。観光客に関しては、実際のところ2022年以前と比較して7〜8割の回復です。
実際こうしたお店はアジア系の顧客が95%になります。よく分析すれば日本人の客層はすでに7から8割程度で、残りは韓国、中国、シンガポール、台湾などのアジア系の客になっています。
こうした事情から、アジア全体を見渡すという戦略は間違っていません。
重要なポイント:
この場合、店の方向性は少しぶれていくことが懸念されます。そのため、店内のキャストや客の管理、メニューやルールの複雑化という問題が生じます。
この問題の解決は容易ではありません。この微妙なズレをいかにして誤魔化してみせるか、という経営を実行できる組織力が必要となりますが、ほとんどの店では実践できないと思います。
一つのアイディアとして、例えば2Fは日本人客メイン、3Fは韓国人の客メインとして部屋を区別します。WEBサイトもそれぞれの言語を用意するなどして、多言語対応している印象を事前にアピールするとよいように思います。
キャストは混合でもいいですが、それぞれの言語を話せるキャストをキープする必要があるでしょう。いずれにしろ管理はかなり難しくなると思います。
日系、日本人スタッフなどを前面に押し出し、日本独自の新しいスタイルを売りにしていく
近年、日本のラウンジやコンセプトカフェ、ガールズバーなどのお店もベトナムに入ってきました。こうした新しい流れは、これまでのKTVなどに飽きてしまったユーザの取り込みが可能です。
現状まだまだこうした店は多くないことから、強みとなるとは言えます。
重要なポイント:
実際のところ、ベトナムにおけるバー関係のビジネスというのは、法的にグレーな部分が多く含まれます。
その問題はおそらく日本で営業しているフィリピンパブやベトナム系の店も同じです。こうした点から、法的な弱さという問題が一つの問題として常に残ります。
この問題を積極的に解決する手段は非常に少ないと言えます。理由として、ベトナムはしっかりするほど目立って逆に刺される、という妙なことが起こります。
目立たずこっそりうまくやる、というのはベトナムにおいては処世術のようなもので、案外その方が安全であるというのは今も変わりません。
その意味で、公安関係、セキュリティ、近所の同業者や周辺のベトナム人労働者などとは敵対関係にならないような関係を維持しましょう。
小売業と中古市場の課題
小売業界においては、大手資本のイオンやコーナンが一定の成功を収めていますが、中古市場に関しては多くの課題があります。
中古ビジネスは、外国人が100%オーナーになれないことや、中古家電の輸入が禁止されている点がハードルとなります。
中古家電は一度カンボジアに入り、そこから非合法ルートでベトナムに入ることが一般的であり、合法的なビジネス展開は難しい状況です。
輸入・輸出業のリスクと可能性
輸出は比較的リスクが低いとされ、ベトナムでは前金取引が一般的です。しかし、輸入に関しては前金によるリスクが高く、特に品質管理の面で大きな課題があります。
輸入品としては、コーヒー、胡椒、ニトリル手袋などが世界市場でシェアを持っており品質面でも安心感があります。鶏糞のようなニッチな商品にもビジネスチャンスがあります。
金融業とオークション市場の潜在力
資本金1000万円規模での金融業は難しいとされていますが、保険関連企業との提携や、ベトナムのオークション市場に参入する方法は可能です。
現在、ベトナムではコロナ後の土地価格の減少から資産を手放すケースが増えており、政府や銀行没収資産がオークションで販売されています。
これらのルートにうまく入り込むことで利益を上げることができる可能性があります。
不動産業のリスクと法律の複雑さ
ベトナムでの不動産業は、日本とは異なる法律や習慣に対応する必要があり、多くの課題が伴います。特に、行政手続きの遅さや、日本人には馴染みのない慣習、頻繁に変わる法制度が大きな障害です。
例えば、私が7年前に売却したコンドミニアムの手続きが今年ようやく完了したほど、行政手続きが煩雑です。その際、私個人のサインだけで50数回記載が必要としました。
さらに、ディベロッパー企業の倒産や詐欺による不安定さもリスクとなります。
行政関連ビジネスの難しさ
日本の優れた技術やインフラシステムをベトナムで導入しようとする試みは多いものの、成功するケースは稀です。
ベトナムでは開発案件が突然ストップすることが頻繁にあり、行政側の不正や資金不足が原因となることが多いです。
また、契約後に条件が変更され、売り手が不利になるケースが多々あるため、交渉も非常に難しい状況です。
人材関連ビジネスの成長可能性
ベトナムの技能実習生関連のビジネスは、ジャパンブランドの価値が依然として高いため、可能性のある分野です。現在は、技能実習生が日本の現場に入ってすぐに辞めてしまうケースが多く、これを防ぐためのアフターフォローシステムが求められています。
彼らが継続して労働を続けるための条件や環境を整えることで、大きなビジネスチャンスをつかむことができるでしょう。
IT業界の課題とチャンス
ベトナムのIT業界はオフショア開発の需要が高いものの、円安の影響でコスト増加が課題となっています。
100名規模のIT企業を運営するベトナム人オーナーは、日本語と技術スキルを持ち、優れた管理能力を発揮しています。
こうしたオーナーと連携し、魅力的な案件を提示できれば、ビジネスチャンスは大きいでしょう。
物流・配送業
ベトナムの物流業界は、急速な経済成長に伴い需要が増えていますが、多くの課題が存在します。まず、倉庫不足が大きな問題です。
物流センターの少なさと管理不足により、スムーズな配送や保管が難しく、商品のコンディション維持が困難なケースが多発しています。また、商品の取り扱いの粗雑さや盗難のリスクも高く、これはビジネス運営に大きなストレスを与えます。
現地の物流を改善するためには、従業員の教育、セキュリティの強化、技術の導入(例えば在庫管理システムやトラッキング技術)などが求められます。
さらに、ローカルパートナーとの協力が不可欠です。小規模の資本であっても、これらの問題をクリアにすることで差別化を図ることが可能です。物流の効率化に貢献するビジネスモデルや配送ソリューションには大きなチャンスがあるでしょう。
ヘルスケア・医療関連
日本製品は信頼されていますが、ベトナム市場でのブランド力と知名度の差が、単純な「メイドインジャパン」では十分でない現実があります。
成功するためには、製品の質だけでなく、ベトナム国内での認知度を高める必要があります。特に医療機器や健康関連商品では、ベトナムの有名人を使ったマーケティング戦略や、現地のエンタメ業界とのコラボレーションが鍵です。
この分野では、日本の高度な技術を用いたリハビリテーション、高齢者ケア、メンタルヘルスケアなども今後需要が高まると考えられます。日本の医療機器メーカーやサービスプロバイダーが、現地のニーズに合わせたカスタマイズと現地企業との連携を図ることで、長期的に成功できる可能性が高いです。
教育業界
ベトナムでは日本語教育が進んでいますが、その多くは日本への渡航や資格取得を目的としたものです。
しかし、ビジネス現場での実務的な日本語スキルに特化した教育は不足しています。例えば、KTVやホスピタリティ業界における日常会話や日本人客対応に焦点を当てた日本語教育は、実際にニーズがあるにもかかわらず提供されていません。
業界別の専門的な日本語教育(接客業や観光業、販売業など)は、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。
日本語教育を提供するだけでなく、ベトナム人スタッフの職業スキルや接客スキルを向上させることに焦点を当てる教育プログラムが求められます。
資格取得に偏らない、実践的な言語教育ビジネスはベトナムの成長市場を捉えられるかもしれません。